介護の仕事では、移乗介助や入浴介助、排泄介助など、腰に負担がかかる場面が少なくありません。
「仕事が終わると腰が重い」
「利用者を支えるときに腰に不安を感じる」
といった悩みを抱えている介護職の方もいるのではないでしょうか。
腰痛は、身体の使い方だけでなく、作業環境や介助方法、業務量など、複数の要因が重なって起こることがあります。
そのため、個人の努力だけに頼るのではなく、日々の介助方法を見直し、職場全体で予防に取り組むことが重要です。
今回は、介護職が知っておきたい腰痛予防の基本と、現場で実践できる対策を紹介します。

1.介護職に腰痛が起こりやすい理由
介護現場では、利用者の身体を支えたり、ベッド上で姿勢を整えたりする場面が多くあります。
こうした作業では、腰に大きな負担がかかることがあります。
特に注意したいのは、次のような動作です。
・前かがみ・中腰の姿勢:ベッド上のケアや排泄介助などで、腰を曲げた姿勢が続く
・身体をひねる動作: 利用者を支えながら、上半身だけをひねって方向を変える
・人力での抱え上げ: 移乗介助などで、利用者の身体を持ち上げようとする
・同じ姿勢の継続: 長時間の立ち仕事や、腰を曲げた状態での作業が続く
・作業環境の問題: ベッドの高さや介助スペースが適切でなく、無理な姿勢を取らざるを得ない
また、人員配置や業務量、時間的な余裕のなさなども、無理な介助につながる要因になります。
厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」でも、介護・看護作業における腰痛の予防には、作業姿勢や動作だけでなく、福祉用具、作業環境、組織体制などを含めた対策が必要とされています。

2.腰への負担を減らす身体の使い方
毎日の介助では、身体の使い方を意識することが大切です。
ただし、姿勢を工夫するだけですべての負担を防げるわけではありません。福祉用具の活用と組み合わせて考えましょう。
利用者にできるだけ近づく
利用者から離れた位置で介助すると、腕を伸ばしたり、上半身を前に倒したりする必要が生じ、腰への負担が大きくなります。
介助を始める前に、利用者に近づける位置まで身体を寄せ、無理なく手が届く範囲で作業できるようにしましょう。
身体をひねらず、足元から向きを変える
利用者を支えたまま、上半身だけをひねって移動方向を変える動作は、腰への負担につながります。
方向を変えるときは、足元から身体全体の向きを変えることを意識しましょう。
介助する位置や車椅子の配置を事前に調整しておくことも有効です。
ベッドの高さや作業スペースを調整する
ベッドが低すぎると、前かがみや中腰の姿勢になりやすくなります。
高さを調整できるベッドでは、介助者が無理に腰を曲げずに作業できる高さに設定しましょう。
また、ベッド周囲の物品を整理し、利用者の正面から介助できるスペースを確保することも大切です。
急な動作や無理な力任せの介助を避ける
利用者の動きに合わせず、急に引っ張ったり、勢いをつけて持ち上げたりすると、介助者にも利用者にも負担がかかります。
介助の前には、利用者の状態や動作能力を確認し、声をかけながら進めましょう。
自分ひとりでは安全に介助できないと判断した場合は、無理をせず応援を依頼してください。

3.抱え上げない介助と福祉用具の活用
腰痛予防では、身体の使い方を工夫するだけでなく、腰に大きな負担がかかる作業そのものを減らすことが重要です。
厚生労働省は、移乗・入浴・排泄介助などで全介助が必要な利用者を抱え上げる際には、リフト等を積極的に使用し、原則として人力による抱え上げを行わせないよう示しています。
現場では、利用者の状態や設備に応じて、次のような福祉用具の活用を検討しましょう。
・介護リフト:利用者を抱え上げる負担を軽減する
・スライディングシート:ベッド上での移動や姿勢の調整を補助する
・スライディングボード: ベッドと車椅子などの間の移乗を補助する
・高さ調整機能付きベッド:介助時の前かがみや中腰を減らす
用具は導入するだけでなく、利用者の状態に適しているか、正しい方法で使用できているかを確認することも大切です。
職員への使用方法の研修や、必要な用具を使いやすい場所に配置する工夫も欠かせません。
また、利用者に残されている立ち上がりや移動などの能力を、安全に配慮しながら活用することも、不要な抱え上げを減らすことにつながります。

動画で学ぶ!ノーリフトケアの実践方法
ノーリフトケアは、介護職の腰への負担を減らすために、抱え上げない介助を基本とし、福祉用具などを活用して安全なケアを目指す取り組みです。
福マチのTikTok・Instagramでは、介護のプロによるノーリフトケアの実践方法を動画で紹介しています。
文章だけではイメージしにくい介助の動きや、現場での実践方法を学ぶ参考として、ぜひこちらの動画もあわせてご覧ください。

4.日常業務で取り入れたい腰痛予防の習慣
腰痛予防は、特別な訓練だけでなく、日々の業務の進め方を見直すことから始められます。
同じ姿勢を長時間続けない
立ち仕事や座り仕事、前かがみの姿勢が続く場合は、可能な範囲で姿勢を変え、腰を伸ばす時間を設けましょう。
短い時間でも身体を動かす機会をつくり、同じ部位に負担が集中しないようにすることが大切です。
介助前に環境を整える
介助を始める前に、ベッドや車椅子の位置、必要な福祉用具、周囲の障害物などを確認しましょう。
作業を始めてから無理な姿勢で対応するのではなく、事前の準備によって負担を減らすことがポイントです。
疲労をため込まない
十分な睡眠やバランスのよい食事、無理のない範囲での運動など、日常の健康管理も大切です。
ただし、ストレッチや運動をすれば腰痛を必ず防げるわけではありません。
痛みがあるときは無理に身体を動かさず、自分の状態に合わせて対応しましょう。

5.腰痛予防は職場全体で取り組む
腰痛対策を個々の職員の注意だけに任せていると、忙しい時間帯や人手が不足している場面で、無理な介助が繰り返されるおそれがあります。
そのため、管理者やリーダーを含め、職場全体で次のような取り組みを進めることが重要です。
・腰に負担がかかる介助や作業を把握する
・福祉用具の導入・使用方法を検討する
・無理な介助をひとりで抱え込まない人員体制を整える
・腰痛予防に関する研修や情報共有を行う
・痛みや不調を相談・報告しやすい環境をつくる
・休憩や業務分担を見直し、負担が特定の職員に集中しないようにする
腰に痛みや違和感がある場合は、我慢して仕事を続けるのではなく、早めに上司や職場の担当者に相談しましょう。
強い痛みや、脚のしびれ・力の入りにくさなどを伴う場合は、医療機関への相談が必要です。

まとめ:無理をしない介助が、自分と利用者を守る
介護職の腰痛予防では、身体の使い方を工夫することに加え、福祉用具の活用、作業環境の整備、適切な人員配置などを組み合わせることが重要です。
利用者に近づいて介助する、身体をひねらず足元から向きを変える、ベッドの高さを調整する。
こうした基本を日々の業務で意識するとともに、抱え上げが必要な場面では、福祉用具の活用を優先して検討しましょう。
さらに、実際の介助方法を動画で確認することも、ノーリフトケアへの理解を深めるきっかけになります。
福マチのTikTok・Instagramで紹介している実践動画も、ぜひ日々の学びにお役立てください。
腰痛予防は、介護職が長く安心して働き続けるためだけでなく、利用者に安全な介助を提供するためにも欠かせない取り組みです。
一人ひとりの工夫と職場全体の対策を積み重ね、無理のない介護を実践していきましょう。
【参考資料】
厚生労働省「[腰痛予防対策]
(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_31158.html)」
厚生労働省「[保健衛生業における腰痛の予防]
(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_31197.html)」
厚生労働省「[職場における腰痛予防対策の推進について]
(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb9484&dataType=1&pageNo=1)
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