介護・障がい福祉のエキスパートが全面サポート

2024.9.18

運営指導がやってくる!

1.運営指導とは

運営指導とは、介護保険法に基づき、行政機関が事業所に対して適正な運営がされているかを確認し、指導・改善を促すための制度です。2022年度から「実地指導」から「運営指導」へと名称が変更され、指導場所がオンラインを含む柔軟な形式に対応するようになりました。

 

1-1 行政機関の役割

 

◆保険者:介護サービスを利用した際に、その費用を支払う立場の機関。市町村や国民健康保険団体などが保険者として機能します。

 

◆指定等権者:介護事業所を指定・許可し、その運営を監督する役割を持つ機関。保険者と重なることが多い。

 

1-2 運営指導の目的

 

介護保険事業は、保険料や公費で運営される公益性の高い事業であり、利用者の「尊厳の保持」や「自立した日常生活の支援」を目的としています。行政機関は、事業所が適切にこの役割を果たせるよう、定期的に運営状況をチェックし、適正なサービス提供を促すための指導を行います。

 

 

使用済み

 

 

2.運営指導と監査の違い

介護サービスの監督方法には、運営指導と監査の2種類があります。言葉が似ているため混同されがちですが、目的や方法が大きく異なります。

 

2-1 運営指導

 

◆集団指導:複数の事業所を1カ所に集め、法改正や事業運営に必要な情報を共有する場です。介護保険サービスの質を保ち、保険給付の適正化を目指します。

 

◆運営指導(個別指導):事業所ごとに行われ、サービスの質や運営体制、介護報酬の請求状況などを確認するため、書類の提示や質問を通じて行われます。目的は事業所が法令に基づいて適正に運営されているかを確認し、必要があれば改善を指導することです。

 

2-2 監査

 

監査は、運営基準違反や介護報酬の不正請求などの疑いがある場合に行われる強制的な調査です。監査が実施され、違反が認められると、勧告や行政処分(指定取消など)が行われることがあります。監査は強制力を持ち、運営指導の段階で疑わしい行為が見つかった場合には、途中で監査に移行することもあります。

 

 

3.運営指導の効率化

2022年度からの運営指導の変更では、効率化が重要なポイントとして強化されています。主な効率化の内容は以下の3つです。

 

3-1 オンライン活用の明記

 

運営指導は、従来は現地での実施が基本でしたが、最低基準や報酬請求に関する確認などはオンラインでも対応できることが明記され、より柔軟な対応が可能になりました。

 

3-2 ローカルルールの是正

 

自治体ごとの指導ルールのばらつきを減らし、標準化が進められています。確認項目や文書は全国統一のものを基本とし、効率的な指導を目指しています。これにより、確認項目が過度に増えることを防ぎ、事業所側の負担も軽減されます。

 

3-3 実施頻度の明記

 

運営指導の頻度は、原則として事業所の指定・許可の有効期間である6年の間に少なくとも1回以上行うことが定められました。これにより、事業所は計画的に準備を進めることが可能です。

 

 

 

 

4.適正運営確認

運営指導の中核となるのが「適正運営確認」です。これは、施設や事業所が法令に基づいて適切に運営されているかを確認するプロセスであり、以下の項目が対象となります。

 

 

4-1 利用者へのサービス提供

 

◆ケアの質:適切なケアが提供されているか、利用者のニーズに基づいたサービス計画が作成されているかを確認。

 

◆サービスの記録:サービス提供の記録や日々の利用者の状況が正確に残されているか。

 

 

4-2 人員基準の遵守

 

◆職員の配置:必要な資格を持った職員が配置され、利用者の人数に応じて適切な人員配置がされているか。

 

◆管理者の配置:運営を統括する管理者が適切に配置されているか。

 

 

4-3 設備基準の遵守

 

◆安全な施設環境:施設内が清潔で安全か、バリアフリーや防火対策などが適切に行われているか。

 

 

使用済み

Business woman in suit commuting under the blue sky

 

 

5.人員基準

 

介護施設や福祉サービス事業所では、適切なサービス提供のために、職員の数や資格に関する基準が設けられています。

 

5-1 職員数

 

利用者の数に応じて、必要な職員の人数が定められています。例えば、特別養護老人ホームでは、3名の利用者に対して1名の介護職員が必要です。

 

5-2 資格要件

 

職員には、介護福祉士や看護師、社会福祉士など、適切な資格が求められます。また、管理者や主任には一定の経験年数や資格が必要です。

 

 

6.設備基準

 

設備基準とは、介護施設や事業所が安全で快適な環境を利用者に提供するために必要な設備に関する基準です。

 

6-1 建物の構造

 

バリアフリー化が義務付けられており、車いすが安全に通れるよう、段差をなくし、広い通路を確保することが求められます。

 

6-2 安全設備

 

防火対策(消火器や避難経路の設置)や衛生管理のための換気システムが整備されているかどうかを確認します。

 

6-3 居住スペース

 

利用者の居室や共用スペースには一定の広さが必要で、特に居室は利用者1人当たり8㎡以上のスペースが基準とされています。

 

 

7.運営指導の流れ

 

運営指導は、以下の流れで行われます。

 

  1. 書類確認:事業所が法令に基づいた書類を正しく管理しているか。
  2. 現地確認:施設を訪問し、設備や人員配置が基準に合致しているかを確認。
  3. 是正指導:不備があった場合、改善指導が行われ、事業所はそれに基づき是正措置を取る。

 

 

 

 

8.まとめ

 

運営指導は、介護施設や事業所が法令や基準を守り、利用者に質の高いサービスを提供するための重要な仕組みです。主に「適正運営確認」「人員基準」「設備基準」の3つの要素を中心に、行政機関が定期的に評価・指導を行い、事業所が適切に改善する機会を提供します。

 

運営指導は、単なるチェックではなく、業務改善の貴重な機会でもあります。指導通知が届くと、「運が悪い」と感じたり、不安になることがあるかもしれませんが、実際には業務の質を向上させるためのチャンスです。外部の目で点検してもらうことで、サービスの質を見直し、改善点を明確にする機会となります。これにより、利用者により良いサービスを提供するための重要なステップとなります。

 

法令違反があった場合でも、軽微な違反については口頭や後日書面での指摘があり、迅速に対応することで問題は解決します。重大な処分に進むことは稀であり、適切な対応を行うことで安心して対処できます。

 

「運営指導対策」という言葉を耳にすることがありますが、即席で対応する方法はありません。真に有効な対策は、普段からの適切な業務運営です。利用者との契約や同意の書面の取り交わし、個別のケア計画の作成と実施、そしてその記録化が重要です。これらを日常的に行うことで、運営指導に対する準備が整い、質の高いサービス提供が可能になります。